クロスロード
数ヶ月前の僕だったら伝えていなかったかもしれない。
わざわざこんなことを柚に教えるほど心は広くなかった。
なのに今、自分から柚へ伝えようとしている。
何かが変わっていく。音も立てずに、ひっそりと。
『もしかして昼休みのこと?碧君が私のクラスに――、』
一瞬柚の声色がズレる。
……吃驚するようなことでもあったのかな。
本人の顔が見えないからこうして頭で想像するしか道はない。
どうしたの、と訊きたかったけど時間がないことを優先し会話を続けた。
『そうそう。柚、今日が何の日か忘れてるよね。一応言っとこうと思って』
『え、今日?――……っ、』
その時、柚が誰といたのか。何をされたのか。
何も知らないのは僕だけだった。
『だから今日は、』
『勝手に電話してこないでくれる』
携帯越しに聞こえた低い声。
その聞き覚えのある声にカッと目を見開く。
『……え?翠?』
確信はあった。柚の携帯を奪ったのは翠だと、わかっていた。
けどあまりにも吃驚して、唖然としたまま情けない声を出してその名前を呼んでしまった。