クロスロード

数ヶ月前の僕だったら伝えていなかったかもしれない。

わざわざこんなことを柚に教えるほど心は広くなかった。


なのに今、自分から柚へ伝えようとしている。

何かが変わっていく。音も立てずに、ひっそりと。



『もしかして昼休みのこと?碧君が私のクラスに――、』



一瞬柚の声色がズレる。


……吃驚するようなことでもあったのかな。

本人の顔が見えないからこうして頭で想像するしか道はない。

どうしたの、と訊きたかったけど時間がないことを優先し会話を続けた。



『そうそう。柚、今日が何の日か忘れてるよね。一応言っとこうと思って』

『え、今日?――……っ、』



その時、柚が誰といたのか。何をされたのか。

何も知らないのは僕だけだった。



『だから今日は、』


『勝手に電話してこないでくれる』



携帯越しに聞こえた低い声。

その聞き覚えのある声にカッと目を見開く。



『……え?翠?』



確信はあった。柚の携帯を奪ったのは翠だと、わかっていた。

けどあまりにも吃驚して、唖然としたまま情けない声を出してその名前を呼んでしまった。
< 194 / 251 >

この作品をシェア

pagetop