クロスロード
「翠君じゃなきゃ嫌だもん」
そう言いながら右手で翠君のワイシャツを掴む。
ふわりと香るシャンプーの匂い。そっか、さっきお風呂使ってたもんね。
すっかり涙は止まっていたから遠慮なしに肩へ顔を埋める。
暫くして身体を離した時、すっと頬へ手を添えられた。
「……ねえ、翠君」
「なに?」
「しあわせにしてね」
なんて、言ってみたけど。
『しあわせ』の定義が何かはわからない。
人それぞれ大事なモノは違うし、『しあわせ』の感じ方も違うだろう。
実際、しあわせにしてくれなくてもいいんだ。
だって私は翠君がいるだけで満たされるから。
ずっと傍にいてくれればそれだけでしあわせだから。
「そのつもりだけど」
直後、ぐっと顔を近づけられて唇と唇が触れ合う。
昨日何度も触れ合ったはずなのに、まるで初めてキスしている気分になった。
しあわせにしてね、なんて、ちょっと言ってみたかっただけなんだ。
なのにそれを当然のように受け入れてくれる彼は愛しくて、かっこよく見えてしまう。
どうしよう、なんかドキドキしてきた。