クロスロード
……って、あげると言われても。
「紫音が貰ったなら紫音が使えばいいじゃん」
「使い道がないから椿に渡したんだよ。あ、なら司(つかさ)兄にあげて」
「お兄ちゃんがこういうとこに興味あるわけないでしょ」
4つ上で大学生のお兄ちゃんはいつも冷静で、クールで、学年トップの頭を持っている。
まわりの大人は『さすが本家の長男』なんて嬉しそうだけど。
でも私はそういうの関係ナシにお兄ちゃんは凄いと思う。
そんなお兄ちゃんだから遊園地に行くようなタイプではない。普段から遊んでるところもあんまり見ないし。
「じゃあ翼(つばさ)にあげなよ」
翼、というのは2つ下の弟だ。
くりっとした二重に女の子みたいな可愛い顔。基本大人しいけど、なぜかたまに大胆になる。
そんな翼は紫音の弟、蒼太(そうた)君と仲が良い。
というか、翼は昔から蒼太君にべったりなのだ。
私と紫音みたいに同い年同士ってのもあるけど、今じゃ蒼太君は翼のボディーガードみたいになっている。
男なんだから自分の身は自分でまもれって思ったけど、可愛い弟の前だとどうしても言えない。
「翼は蒼太君いなきゃ行かないと思うけど」
「男同士で遊園地、ね。さすがに虚しいんじゃない?」
「だったら紫音が行けばいいじゃん!」
最初っからそう言ってるのに!
紫音だったら一緒に行ってくれる子にも困らないはず。
茶色の髪に黒縁眼鏡の紫音は私のクラスでインテリイケメンと密かに騒がれているから。
私の罵声に紫音は驚く様子もなく、例のへらっとした笑みを浮かべた。