クロスロード
「パパは断っていいって言ったけど、その企業結構大手で。契約が成立すれば――」
「へえ。契約のために身売りするつもり?」
「っそういうわけじゃない!でも、私一人の我が儘でパパの邪魔はしたくないの!」
だから顔合わせだけ、と呟くと、紫音は手に持っていた長財布をズボンにしまう。
そして「椿」と私の名前を呼んで頬に手を添えた。
まわりの視線を気にしている私にとって紫音の行動に焦る。
だめ、と言おうとしても切れ長の瞳に視線を囚われてできなかった。
「いいよ、お見合いすれば?」
「……え、」
返ってきたのは淡白な声。
てっきり怒られるのかと思っていた私にとってそれは唖然とする以外なにもなくて。
チクリと痛む胸に眉を顰めて唇を噛んだ。
……紫音との関係も終わってしまうんだろうか。
はっきり言ってしまえば、私と紫音は付き合っているわけではない。
付き合ってないのに恋人同士がするようなことをしている。
『好き』と言葉を交わらすのは深夜の甘い時間だけ。
幼なじみ以上、恋人未満。
とてつもなく不安定なこの関係は、いつ終わりがきてもおかしくない状況だった。
が、そんな私の思考を紫音は軽々吹き飛ばす。