クロスロード
「お見合いしたからって結婚するわけじゃないし。ほら、僕の母さんと椿のお父さんだってそうだったじゃん」
「そ、うだけど……でも全部が全部そうなるわけないよ」
「なるね。椿のお父さんなら身を持って経験したんだから、椿が良いって言わなきゃ結婚させない」
「……なんでそんなに言いきれるの?」
「溺愛してる愛娘のためならそれくらいするでしょ」
溺愛って……パパそんなキャラじゃないのに。まあお兄ちゃんや翼に比べれば可愛がってくれてるかもしれないけど。
でも、確かにパパはお見合いしたけど結婚しなかった。
この話はパパ本人じゃなくて家のお手伝いさんに聞いたのだけど(パパには内緒ね、と言われた)。
そういえば私のママは仕える家系の娘だったのにパパと結婚してる。
初めて知った時はすごく吃驚した。そんなこともあるんだって、どこか現実味のない感じがした。
「それに、そんなヤツに渡さないし」
「え、…紫音?」
彼が言ったとは思えないセリフに思わず聞き返してしまう。
だって紫音はいつもヘラヘラしてて流れに身を任せているタイプなのに……
「何なら翠さんみたいに乗り込むのも悪くないよね」
「へ?パパがなに?」
「何でもない。それより椿、」
右手は私の頬に触れたまま。
ぐいっと身体を引き寄せ、耳元へ唇を寄せる紫音。
そのまま小さく「今夜、部屋の窓開けといて」と呟かれて顔が熱くなった。
あたふたしている私を余所に例の笑みを浮かべて去っていく紫音。