クロスロード
不安の面影

春独自の暖かい風が吹く中、遅れ咲きの桜が儚く舞っている。

私が住むこの広い敷地の中も桜の木が沢山植えられていて、春は一面桃色に色づく。

そして春は毎年鈴蘭を育てるのが恒例だから、私が使わせてもらっている花壇は鈴蘭が満開。


やっぱりいいなあ、春って。


眺めてるだけで幸せな気分になるし、こう、気持ちも華やかっていうか。

春は出会いと別れの季節ともいうけど、新しいスタートを切る季節がしっくりくると思う。


自然と緩む頬を押さえながら自宅のドアを開けた時――、

ほくそ笑む私の目の前にはお父さんが立っていたため、上昇していた気持ちは一気に急落した。



「今帰りか」

「……う、うん」



あの婚約騒動以来、お父さんは私と翠君の関係を表面上は認めてくれた。

バックでは殆ど彰宏(あきひろ)さんが支持してくれたんだけど……

前みたいに本家と関わるな、などはもう言われない。


でも……正直、私と翠君の事には反対している、気がするんだ。


いくら婚約者と言えども、本家と仕える家系。

人一倍世間体を気にするお父さんが納得できないのも無理はない。


「お父さん、どこか出かけるの?」


皮靴に足を入れていたお父さんに訊ねると、すぐ傍には白い封筒が置いてある。

……届けに行こうとしてたのかな。
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