クロスロード
そんな私の視線に気づいたのか、その封筒を手に持ち「本家に届けに行くんだ」と教えてくれた。
やっぱりそっか……どうせなら行きたかったな。
お父さんには言えないから心の中で呟き「そうなんだ」、小さく笑ってその場を去ろうとした。
……でも。
「柚。暇なら代わりに届けてくれないか」
「……え?」
スッと差し出された封筒。
宛先は本家の当主、麻生彰宏さん宛。
……言葉の真理が分からなくて瞬きを繰り返していると、お父さんは足を引っこめ玄関から離れようとした。
「俺は他にもやることがあるんだ。これくらいやってくれ」
「え、あっ……うん。届けるよ」
「必ずな」
恐る恐る封筒を受け取ると、お父さんは踵を返して奥へと消えていく。
皺が付かないよう、鞄の中に入っている学校用のファイルに封筒をしまった。
……前にもこんなことあったけど、まさかお父さんに頼まれるなんて。
実際、お父さんが忙しいのは本当。それでも昔は、決して私に頼んだりしなかったのに。
ちょっとは認めてくれた、のかな。
再び緩む頬。
胸ポケットから鏡を取り出し髪を整え、本家へ向かって歩きだした。