クロスロード
半年前の私は、堂々と本家の門を通りぬけることなど一生ないと思っていた。
近づくことすら許されていなかった。
それを今、こうして門を通っていることが凄く不思議に感じる。
違和感がないと言ったら嘘。
そういえば婚約してから私情で本家に行ったことはないなあ。
丁寧に手入れされたお庭を眺めながら玄関へ向かっている途中、一人のお手伝いさんが私に気づき玄関を開けてくれた。
「すみません、当主様はいらっしゃいますか?」
「ちょっと今出かけちゃってるんですよ」
「あ……そうなんですか」
留守中だったんだ……この封筒どうしよう。
お手伝いさんに渡すのは悪いし、かと言って家の中で待たせてもらうのも申し訳ない。
一回出直そうかな、とも考えた。
が、せっかく本家に来たし、何より翠君に会えるかもしれないという期待を裏切ることができない。
「よかったら中で待たれてはどうですか?」
お手伝いさんは気を利かせてくれて、笑顔で私を中へと導く。
その途中、「翠さんは2階にいますよ」とこそっと教えてくれた。
……私と翠君の関係を、今ではこの敷地内に住む人全員が知っている。