クロスロード
すうっと深呼吸して襖を軽く叩くと、「どうぞ」――簡潔な返答が響く。
震える指を襖にかけてそのまま開けば、私の部屋の何倍も広い和室が広がっている。
彼は壁に背を預け座りながら、文庫本を読んでいた。
「……翠君っ」
ネクタイを外した制服のシャツ姿が、いつもと違って新鮮。
シャツは第二ボタンまで開けていて、白い肌から覗く鎖骨がどくんっと心臓を揺らす。
……何だろこれ。一瞬だけど、変な気分になった。
私の心情など知らない翠君は文庫本から視線を離し、傍へ歩み寄る私を見上げた。
「何か用?」
「用は、ないけど……だ、だめだった?」
「別にいいけど」
うん、大丈夫。
本当に嫌だったら追い出されてるはずだよね。
悪魔でポジティブに考え、壁に寄りかかっている彼の隣に腰を下ろす。
反対側の隣へを置いた時、例の封筒の件を思い出した。
「あの……彰宏さん、いつ帰ってくるか分かる?」
「さあ。すぐだと思うけど」
「じゃあ、その……私届け物頼まれてて、帰ってくるまでここにいてもいいかな」
「勝手にすれば」
そのまま再び文庫本を開き、視線を戻してしまった。