クロスロード

「え?何それ?……まあでも少しはあるよね?」


「……手も繋いでないよ」



再び石化したように硬直する真菜。


ピシャーン、という効果音が相応しい。


その隣で私はいそいそと体操着を袋に詰め込み、更衣室を出る準備をした。

気づけば周りには誰もいなく、私と真菜だけが残っている。



「真菜、そろそろ出――、」


「あのさ……柚」


「うん?」


「実際あたしそういうことよく分かんないけど、それって変じゃない?」



控え目に意見する真菜に、苦笑いしかできない。

それ以前にちゃんと笑えていたのかさえ怪しい。


婚約してから今まで、手すら繋いでないのってどうなんだろう。

しかも同じ敷地内に住んでるのに。



唯一婚約者、というか恋人らしいことしたのは春休みに行った水族館かな。


それか、婚約騒動の前日の夜―――……



必死に過去を振り返ってみたものの、これ以外に思いつくことはなくて。

人がいなくなった更衣室の中、盛大に溜め息をつくことしかできなかった。


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