クロスロード
こういう時でも牡丹餅食べれる私って何なんだろう……
あんこがたっぷりついた牡丹餅を口に含んでいると、「先輩っ」、傍で聞こえた高い声。
フと視線を牡丹餅から逸らせば、茶道部の後輩が私と真菜の前に座っていた。
「りっちゃん、どうしたの?」
真菜はいつもの笑顔で返す。
りっちゃんこと里穂(りほ)ちゃんは、1つ下の後輩。
一見大人しそうに見えて意外と大胆な彼女は、真菜と凄く仲が良い。
緩やかに巻かれた髪を指に巻きつけながら、「聞きたいことあるんですよー」と可愛らしい笑顔を見せられた。
「聞きたいことって?」
「真菜先輩と柚先輩って、彼氏いるんですか?」
「え、彼氏?あー……」
気まずそうに私の方を向く真菜。
……って、こっち見ないでほしいのに!
すぐさまりっちゃんは私に、キラキラとした目を向けた。
「柚先輩いたんですか!?知らなかったーっ」
「え、あ、」
「じゃあ柚先輩に質問しちゃっていいかなあ」
私の言葉は聞かず、りっちゃんは顎に指先を当てて嬉しそうにする。
隣にいる真菜からは『ごめん』と言いたそうな視線を受けている。
……どうしよう。彼氏いないのに……
まさか婚約者がいます、なんて言えない。
学校に秘密にしたいと彼に頼んだのは、紛れもなく私なのだから。