【短編】不器用彼女
「ごめんなさい。……あいつ確かに馬鹿だけど、誰よりも優しいと思ってるから。今が1番幸せなの」
そう言うと、彼は静かに去って行った。
1人残ったあたしは、ゆっくりと振り返って昇降口へ向った。
すると昇降口に貴がしゃがみ込んでいた。
「……貴?」
そう呼ぶと、貴はあたしの存在に気付いて、顔を上げた。
「和泉チャン……」
その顔は不安そうで、捨てられた子犬みたいだった。
少し潤んだ瞳が、あたしの胸を締め付けて、息を詰まらせる。
あたしは近づいてしゃがみ込んでいる貴の前にしゃがみ込む。
「何かあったの?」
そう聞くと、貴はあたしの顔を見ながら小さく呟いた。