音の無い世界で




───
─────



西日が窓から僕を照らしていた。


グランドピアノの鍵盤の上に指を置き、弾こうとした時だった。


背後に人の気配を感じた。


「えーっと……古屋くん?」


僕は、こくりと頷く。


目の前には、普通科の制服を来た女子が立っていた。


僕は彼女を知らない。


「これ落ちてたから、先生が渡してきてくれって」


彼女は、僕に楽譜を差し出してきた。



リスト

ラ・カンパネラ



先生から預かっていた楽譜だ。


僕はその楽譜を受け取り、軽く頭を下げた。


「難しそうだね。どんな曲?」


僕は答える代わりに、鍵盤に指を置いた。



白と黒の固く冷たい鍵盤。


僕の指がそれらに触れる度、この空間に‘音’が溢れだす。



だけど僕はどうしても、


それを知ることが


できないんだ──



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