音の無い世界で
「私、少ししかピアノ弾けないんだけどね」
そう言って、彼女は僕の隣に椅子を持ってきた。
『連弾?』
彼女は、にっこりと微笑んだ。
4本の腕が、鍵盤の上を踊る。
君の音色は
僕の音色は
僕達の音色は──
合っているのかさえ、わからない。
朱色に染まりゆく練習室。
名前も知らない、隣の君。
あぁ今少しだけ、
君の‘音’が
僕の‘音’が
僕達の‘音’が
少しだけ──
聴こえた気がする
end