アリスとウサギ

 そしてとうとう彼とも話ができるくらいの距離に。

「ウサギ、飲んでねーの?」

「俺、これから仕事だし」

「どうせ仕事で飲むんだろ?」

「まあな。けど出勤前には飲みたくねぇ」

 こんな会話が聞こえた。

 これから仕事で飲む、ということはもしかして、ホスト?

 もしそうであれば毎晩違う女を連れ帰るとか、そういう話にも納得がいく。

 キレイな顔をしているし、やってそうな感じだし。

 アリスは思考を巡らせながら、無意識にウサギを視界に留めていた。

 その視線に、彼が気付かないわけがない。

 バチッと目が合い、アリスはそこで初めて凝視していることを自覚した。

 ドキッとしたが、ここで視線を逸らしてはいけないと思った。

 ウサギは不適な笑みを見せ、顔をわずかに傾ける。

「俺の顔に何かついてる?」

 少しハスキーで、低い声。

 のど仏が大きく動いた。

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