アリスとウサギ

 潤んだ目で見つめ、寄り添えば、男は大体勘違いする。

 気を許しているのだと。

 酒のせいにして甘えたり、思わせぶりな態度を取ったっていいのだ。

 後から何か言われても、「酔ってました」で済ませれば解決。

「アリスちゃん、酔っぱらってるの?」

 心配している風な言葉とは裏腹に、彼の腕はアリスの腰に回る。

 アリスは直人の下心を感じ取った。

「うん。酔っぱらっちゃいましたぁ」

 バカみたいにブリッコをかます。

 直人が自分に気を持てばいい。

 この際ホテルに連れ込まれたっていい。

 ウサギがやめとけと言った、直人なら。

 あいつに反抗できるなら、自分なんてどうにでもなってしまえ。

 アリスは薄くなったカクテルのグラスを空けた。

「おかわりください」

 直人に甘えるように告げると、彼はすぐにウサギを呼んだ。

 直人はアリスの心配なんてしていない。

 酔わせた方が都合がいいのだから。

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