アリスとウサギ
「お呼びでしょうか?」
わざと店員口調でやってきたウサギ。
アリスは直人から視線を外さず、意識だけでウサギを感じ取るようにした。
「ファジーネーブルのおかわりと、俺はジントニックね」
「……かしこまりました。おい、奈々子。また飲んで大丈夫なのかよ」
ウサギに肩を触れられ、アリスは彼に視線を向けた。
無言で冷たい顔をするように努める。
するとウサギはわずかに微笑み、アリスの頭をそっと撫でた。
一秒にも満たない短い時間。
ウサギは立ち上がり、カウンターへと戻る。
アヤに何かを告げ、自分も作業を始めた。
二人を見ていると、また腰に直人の腕が回された。
「アリスちゃん、大丈夫? 歩くの辛ければ送っていくよ。それともどこかで休んでいく?」
狙い通りの言葉だ。
あたしだって、男に困ってるわけじゃないんだから。