アリスとウサギ

「えー? 大丈夫ですよぉ」

 無理に作った笑顔で答えると、腰を強く引かれる。

 直人の肩に頭を乗せるような体勢になった。

「無理しなくていいんだよ」

 目を合わせて優しく告げられた。

 顔が、近い……。

 キスされるんじゃないかってほどに。

 コン コン

「お待たせしました」

 ハスキーなその声に、先に反応したのは直人だった。

「ああ」

 アリスから体を離し、彼に軽く返事をする。

 何よ、そのままウサギの前でキスしてくれれば良かったのに。

 アリスはあっさり離れていった直人に心中で不満を垂れる。

 コースターに新しいカクテルが置かれた。

 アリスはすぐさまそれを飲む。

 ミントの葉が飾られ、いかにもカクテルという感じだったが、飲んでみたらただのオレンジジュースだ。

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