アリスとウサギ

「悪いけど、奈々子は俺が受け取るよ。つまんねーケンカに巻き込んで悪かったな」

 と、ウサギはアリスの手を取った。

 直人はとりあえず笑顔を見せ、

「お前、彼女ならちゃんと大事にしろよ」

 と言ってガラスの扉を開けた。

 アリスは視線で早苗に助けを求める。

 すると、

「なによ。ちゃんと好かれてるじゃないの」

 とにやけ顔。

「違うんだってばぁ」

 と言っても時すでに遅し。

 早苗もガラス扉をくぐり抜けてしまった。

「ありがとうございましたー」

 ゴワン、と音を立てて扉は閉まり、スピーカーから流れるジャズがよく聞こえる。

 バーも閉店時間。

 アヤはカウンターで洗い物をしている様子。

 ウサギはアリスの手を握ったまま突っ立っている。

「どういうつもりよ」

 少し酔いが醒めたアリスは、強気な口調でパッと手を放した。

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