アリスとウサギ
ウサギはいつもみたいに口を片方釣り上げて笑った。
「アリスを守ろうと思って」
「何からよ」
「直人。あいつ、俺以上に最低だぞ」
「そんなわけないじゃない。良い人だったもん」
アリスは唇を尖らせて椅子に座り、脚を組む。
ウサギはポケットに両手を突っ込みため息をついた。
「はぁ。すっかり毒牙にかかってんじゃん」
「かかってたってウサギには関係ないじゃない」
「お前、俺は断固拒否したくせに、直人に対してはやけに緩いんだな。狙ってた?」
「別に、あの人とどうこうなろうと思ってないし」
ウサギはふーんと言いながらテーブルのグラスを片付け始めた。
何なのよ、もう。
中途半端に守ったりしないでよね。
「とにかく、今日は送る。隣の店も閉めてくるから、ここで待ってろ」
テーブルとカウンターを行ったり来たりする度にサムライの香りがした。