アリスとウサギ

 アリスは腕に頭を乗せた体勢で回答を待つ。

「今はただの雇い主と従業員」

「……昔は?」

 アヤはクスッと笑って作業を続けている。

 その表情や仕草もウサギを彷彿させる。

 肝心な部分を隠したがるところも。

 アリスの嫉妬はまた一つ深まる。

「あいつ、アヤさんと話すとき、見たこともない表情をしてました。特別な存在なんだなって……感じました」

 アヤはアリスの言葉をかわすように「そうかしら」と言って仕事を続ける。

 アリスは観察するように彼女の行動を見つめた。

「確かに昔は色々あったけど、今は本当にただの従業員なの。奈々子ちゃんが思ってるような関係じゃないわ」

 アヤはカウンターを出て、アリスの隣に座った。

 ふわっと香ったのは、サムライウーマン。

「私には今、息子だっているし、ね」

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