アリスとウサギ
「別に……」
見とれてました、なんて言えず、アリスは無愛想に返す。
これが初めての会話だというのに。
「ふーん」
ニヤリと笑みを浮かべたまま、ウサギはグラスのウーロン茶をワイルドに飲み干した。
再びのど仏が大きく動く。
視線を外す理由を作りたくて、アリスも手に持っていたカシスソーダを一口飲んだ。
「なあ、あんた。一年の頃、英語の講義一緒だったよな」
ウサギの言葉に驚き、パッと視線を戻す。
自分のことなんて知らないと思っていたのに。
「あたしのこと、覚えてたの?」
「忘れられねーよ、有栖川なんて名前」
ああ、そういうこと……。
アリスはやや落胆する。
ウサギはアリス自身を覚えていたのではなく、有栖川という名前の持ち主として認識していただけのこと。
自分はウサギを特別な目で見ていたが、彼にとってはそうでない。
アリスは少し期待してしまった自分自身を恥じた。