アリスとウサギ
アリスは目を見開く。
「まさか、ウサギの?」
「違う違う。別の男の子供よ」
一安心。
年上だったことと店を経営していることでさえ衝撃的だったのに、その上子供までいるなんて言われたらきっと倒れてしまう。
アヤは頬杖をついてアリスに微笑みかけた。
「私もね、誰かを守ろうとする啓介、今日初めて見たの」
「え……?」
「誰がどんな男に口説かれようが、かばったことなんてなかったのよ。私には奈々子ちゃんが特別な存在なんだって思ったけどな」
アヤまでもがアリスの気持ちを高ぶらせる。
彼女の重量感のある声はジャズのサクスフォンのように心に沁みた。
じわりと涙が浮かぶほどに。
「やめてください……」
「え?」
「あたし、あいつのことさっさと忘れたいんです。深く傷付く前に、心から追い払いたいんです」