アリスとウサギ

 印刷室には誰もおらず、ドアを閉めると本当に二人だけの世界。

 差し込むオレンジの夕日がまぶしくて、アリスはブラインドを閉めた。

「いたたまれなくなったのよ。あんたとアヤさんを見てるとね」

 ウサギは教授に預かったカードを印刷機に差し込み、レポートをセットした。

「嫉妬か?」

「……そうよ。あんたに優しくされると、いつまで経っても忘れられないじゃない」

 彼がピッピッピッと操作をすると、機械は音を立ててレポートを飲み込んでいった。

 それを見届けて、脇の長椅子へ倒れるように腰を下ろすウサギ。

 ポンポンと隣に座るよう促してきた。

 大人しく従うと、ウサギは虚ろな目をしている。

 顔は青白く、息はやや荒い。

 アリスはこの時、ようやく彼の異変を感じ取った。

「なぁ、アリス」

「なによ」

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