アリスとウサギ

 苦しそうなウサギの顔がだんだん近づいてくる。

「お前、勘違いしてる」

「何をよ」

 ウサギは10センチくらい距離を残してピタリと動きを止めた。

「知りたけりゃチューしろ」

「はぁ?」

「してほしいんだよ、お前から」

「何言ってんのよ!」

 ウサギは目を閉じて唇を差し出し、キスを促す。

 茨の道へ誘惑するようなその顔から、アリスはすぐさま体ごと目を逸らした。

「あたしは別に知らなくたっていいんだから……」

 直後、体にググッと体重がかかる。

 ウサギが寄りかかっているらしい。

「離れなさいよっ」

 軽く押し返すと、ズルズルとおかしな方向に摩擦を感じた。

 ドサッ

 アリスが視線を向けると同時に、足下で音がした。

「ウサギ……?」

 彼の体は、地面へと滑り落ちたのだ。

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