アリスとウサギ



 アリスは処置室前の長椅子に座り、半ば放心状態で扉を見つめている。

 未だに手足の震えは治まらない。

 目の前で人が倒れるのも、救急車を呼ぶのも、乗るのも、初めての経験だった。

 目に浮かぶのは青白いウサギの顔。

 生命力を感じさせない、魂が抜けきった冷たい顔。

 触れて冷たかったわけではないのに、見るだけで背筋が凍る思いだった。

 どこか悪いところがあるのだろうか。

 心配は度を過ぎて恐怖になった。

 両手を握りしめ、恐怖と震えに耐える。

 涙は治まったが、またいつ溢れてもおかしくない心理状況だ。

 ガー……

 乾いた音を立てて扉が開いた。

 出てきたのは若い男性。

 ウサギの様子を問いつめたかったが、先に言葉を発したのは彼の方だった。

「宇佐木さんのお友達の方ですね?」

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