アリスとウサギ

「はい……」

 力なく答えると、男は無表情のまま次の質問をなげかける。

「宇佐木さんのご家族はご存じないですか?」

「いえ……、わらかないです」

「そうですか……」

 困ったな、という顔をする男に、アリスは不安を膨らませる。

「あの、そんなに悪いんですか?」

「いえ、意識はもう戻られました。詳しい検査をしてみないとまだわかりませんが、過労という線が濃厚です」

 意識が戻った。

 安心で体の力がドッと抜けていくのを感じた。

「身分証を確認したところ学生さんのようなんですが、宇佐木さんは家族はいないの一点張りで……参ったな」

 男の言葉に応える力も出ないまま、アリスは長椅子の端で脱力していた。



 病室は一般病棟の302。

 蘇ったウサギは納得のいかない顔でベッドに座っている。

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