アリスとウサギ

「仕事があるんだけど」

「今は安静にしていないと、またすぐに倒れますよ。バイトならこちらから連絡入れますのでお休みしてください」

「バイトじゃないんですが」

「では職場にご連絡しますから。番号を教えてください」

「店、まだ開いてないし……」

「では経営者の方に連絡します」

「俺が経営者です」

「では従業員の方に」

 はぁ……というウサギのため息が病室に響いた。

 アリスはウサギと医者とのやりとりをぼーっと眺めながら、ウサギの生還を噛みしめる。

「アリス」

 呼ばれて視線を戻すと、ウサギは携帯をこちらに差し出していた。

「アヤに連絡入れといてくんねぇ? 俺、しばらく動けないから」

 恨めしそうに点滴を睨むウサギ。

 さすがにまだクラクラするのか、自ら立ち上がろうとはしなかった。

< 131 / 333 >

この作品をシェア

pagetop