アリスとウサギ
「仕事があるんだけど」
「今は安静にしていないと、またすぐに倒れますよ。バイトならこちらから連絡入れますのでお休みしてください」
「バイトじゃないんですが」
「では職場にご連絡しますから。番号を教えてください」
「店、まだ開いてないし……」
「では経営者の方に連絡します」
「俺が経営者です」
「では従業員の方に」
はぁ……というウサギのため息が病室に響いた。
アリスはウサギと医者とのやりとりをぼーっと眺めながら、ウサギの生還を噛みしめる。
「アリス」
呼ばれて視線を戻すと、ウサギは携帯をこちらに差し出していた。
「アヤに連絡入れといてくんねぇ? 俺、しばらく動けないから」
恨めしそうに点滴を睨むウサギ。
さすがにまだクラクラするのか、自ら立ち上がろうとはしなかった。