アリスとウサギ

「わかった」

 携帯を受け取りながら思う。

 やっぱりアヤさんを頼るんだ……と。

 病院の外に出て、彼の携帯の電源を入れる。

 発信履歴の最初に「楠木綾」と表示があった。

 これで間違いなさそうだ。

 彼女は2コール目で出た。

「もしもし」もセクシーな声だった。

「あの、先週おうかがいした有栖川です」

「あら、奈々子ちゃん? 啓介と一緒なの?」

「はい。実は――」

 こうなった経緯と2~3日入院が必要であることを伝えると、アヤは「うんうん」と慌てる様子もなく聞いているようだった。

「お店は従業員だけで回すようにするし、着替えは明日持っていくって伝えてくれる?」

「わかりました」

「あと、しっかり休めって言っといて。啓介、無理する悪い癖があるから」

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