アリスとウサギ

 さっきウサギが言っていた言葉がよぎる。

「こっぴどく振られた」

 彼はアリスを壁に押さえつけたまま距離を縮めてくる。

 ゴクッと、のど仏が大きく揺れた。

「それなのになんで……お前ばっかりは諦めきれねーんだ?」

「知らないよ、そんなこと」

「ほんっとムカつく」

「だったら放しなさいよ」

「うるせーな。体が勝手に動いてんだよ」

「そういう病気なんじゃない?」

「そうかもな。俺今、超腹立ってんのに……すげーチューしたいもん」

「はぁっ?」

 距離がゼロになった瞬間、張っていた虚勢がボロボロと音を立てて崩れていった。

 涙は出るし、体は熱くなるし、力は抜けていく。

 へたり込むことも許されず、体はガッチリ壁とウサギに支えられ、アリスはされるがまま彼を受け入れるしかなかった。

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