アリスとウサギ

 銀色で5センチほどの長さの金属。

 鍵だ。

「何?」

「俺んちの鍵。何かあったときのためにアヤに預けてたけど、返してもらった」

 鍵は軽くカチッと音を立ててアリスの手に収まる。

「え?」

「普通こういうのって自分の女に渡すもんだろ」

「そうだけど……」

「だから、お前の」

 やっぱり夢ではなかったのだと、鍵を見ながらじわじわと実感が湧いてきた。

「今日、バイトは?」

「ない」

「じゃ、うちにいろ」

「わかった」

 ウサギはじゃあなと言って後ろの方の席へ去っていった。

 やっぱりあたし、ウサギの彼女なんだ……。

 小さなリングが付けられただけの鍵。

 合い鍵なんて渡されたのは初めてで、どうしていいのかわからない。

 なんだかすごく、恥ずかしい……。


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