アリスとウサギ

 タバコを指に挟んだ手でグラスを持つ。

 そして顔とグラスを少し傾けてゴクッと大きくのど仏を動かす。

 その仕草さえ、彼の策略なのだろうか。

「認めるよ。確かに俺はタラシウサギ」

「認めるんだ。変な奴」

「だって事実だし。俺遊んでるよって言っても女の方から寄ってくるし」

「寄っていく女の気が知れない」

「アリスだって寄ってきたじゃんか」

「勘違いしないで。たまたまよ」

 癪に障るが、それは自分を見透かされているから。

 モテる発言をしているウサギ自体には、不思議と嫌味がない。

「あっそ。そりゃ残念。ま、その方がいいと思うけどね」

「タラシウサギだから?」

「そういうこと。俺最低だから」

 こういうこともサラッと言う。

 普通、自分が最低だなんて思ってても言わないだろうに。

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