アリスとウサギ

 言うが早いか手が早いか。

 ウサギはアリスを自分の胸に押しつけた。

「聞こえる?」

「え?」

「心臓の音」

 言われて耳を立てる。

 自分のものとも彼のものとも取れる心音と、軽い振動が伝わってきた。

 ドクドクドクドク……

「バカみたいに速いだろ?」

「うん、速いね」

 ウサギは温めるようにアリスの背中に腕を回す。

 そして頭上で深呼吸をした。

「緊張してんの。マジ、予想外」

「あたしだって緊張してるよ。予想通りだけど」

 フッと鼻で笑うと同時にのど仏が動いたのが見えた。

 ウサギの背中に回していた手にキュッと力が入る。

「やべーな」

「時間?」

「いや、そうじゃなくてさ。完全にスイッチ入っちゃったよ、俺」

「あは、スイッチって……」

 背中がヒヤッとしたと思ったら、ウサギは片手でポケットを漁りだした。

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