アリスとウサギ

 取り出されたのは携帯電話だ。

 少しだけ操作して、耳に当てる。

「あ、俺。今日さ、ちょっと遅れるわ」

「いや、かなり大事な用事ができちゃって」

「じゃ、よろしく」

 通話は10秒ほどだった。

「いいの?」

「いいんだよ。経営者は俺だからね」

 携帯をポッケに収めると、ウサギはアリスを抱いたまま、片腕ずつジャケットを脱いだ。

 ポイッと投げたかと思うと、それはテーブルの真横に着地。

 その時にはもう、アリスは頭を押さえ込まれて彼のなすがままだった。

「ちょっ……まだ髪乾かしてないっ……」

「無理無理。待てねぇ」

 そう言って濡れたまま結った髪を解く。

「5分で乾く……っ」

「バーカ、今の俺には1秒が1時間だっつーの」

 アリスの体がふわっと浮き、そのまま寝慣れたベッドに着陸。

 逆光に見える眉間にしわを寄せたウサギの顔が、恐ろしいほどに色っぽい。

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