アリスとウサギ

 名前は知らない香り。

 アリスの鼻と記憶が正しければ、それはマヤのものだ。

「どこでそんなに飲んだの?」

「うちの店」

「仕事しなさいよ」

「したっつ-の。俺が指名されたんだよ。うちはホストクラブじゃないっつーんだよ、まったく」

 倒れ込むようにベッドに入ってきたウサギは、そろそろ顎鬚が入院前くらいまで復活していた。

 恐らく指名してきたその客は、マヤで間違いないだろう。

「やってたんでしょ? ホスト」

「誰に聞いたんだよ、そんなこと」

「さあ、誰でしょう」

「直人だな。あいつ、余計なこと吹き込みやがって」

 大きなウサギの目は、珍しくトロンとしている。

 酒豪のこいつがこれだけ酔っているなんて、どれだけ飲んだというのか。

「儲かりましたか?」

「大分な。今日のナンバーワンは俺だ」

 そう言って笑ったウサギは、トイレに用を足しに行ってしまった。

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