アリスとウサギ

 こんなベロベロの状態じゃ、バイトのことを話す気にもなれない。

 パンツ一丁のままフラフラと戻ってきたウサギは、

「奈々子~」

 とうわ言のように何度も言いながらアリスに甘え、約2分で眠りについた。

 そっと頭を撫でてみる。

 目が大きい割には短いまつげが揺れた。

 こいつがマヤの接客をしたと思うと、複雑な気分だ。

 ホストクラブなんて行ったことはないが、どんな接客をしたのだろう。

 そっと頬に触れてみる。

 この顔で、あの子に笑いかけた?

 チラッと首元を見てみる。

 あの声で、あの子に語りかけた?

 キュッと彼の手を握ってみる。

 この手で、あの子に触れた?

 自分にショックを与え続ける女が憎い。

 そして自分には、何もお返しができない。

 いや、違うか。

 返されてるんだ。

 私が、ウサギの隣に居座っているから――。

 アリスはため息をついて、せめてものお返しとして寝ているウサギにキスをした。


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