アリスとウサギ

 アリスは彼の手招きに従い、ベッドの脇に腰を下ろして肘を沈めた。

 ウサギはいつかのように髪を指に巻き付け、ゾワゾワした感覚がアリスの体を巡る。

「俺にはね」

 解放された髪は元のゆる巻きに戻り、ベッドにパサリと落ち着いた。

「アリスには知られたくない過去が腐るほどある」

 寂しい一言と共に再び目を閉じたウサギは、布団の中で微かに体を動かした。

 アリスは自分が跳ね退けられたような気がした。

「どういう意味?」

「そのまんまだよ。アリスに誇れるようなこと、何一つないからな」

 誇れなくたって、私はウサギのことが知りたいのに……。

 かすれた声は重みが増していて、アリスの心を奥の方まで揺さぶる。

 思えばいつだってそうだった。

 仕事のことも、年齢のことも、発覚するまで彼は何も教えてくれなかった。

< 247 / 333 >

この作品をシェア

pagetop