アリスとウサギ
アリスは彼の手招きに従い、ベッドの脇に腰を下ろして肘を沈めた。
ウサギはいつかのように髪を指に巻き付け、ゾワゾワした感覚がアリスの体を巡る。
「俺にはね」
解放された髪は元のゆる巻きに戻り、ベッドにパサリと落ち着いた。
「アリスには知られたくない過去が腐るほどある」
寂しい一言と共に再び目を閉じたウサギは、布団の中で微かに体を動かした。
アリスは自分が跳ね退けられたような気がした。
「どういう意味?」
「そのまんまだよ。アリスに誇れるようなこと、何一つないからな」
誇れなくたって、私はウサギのことが知りたいのに……。
かすれた声は重みが増していて、アリスの心を奥の方まで揺さぶる。
思えばいつだってそうだった。
仕事のことも、年齢のことも、発覚するまで彼は何も教えてくれなかった。