アリスとウサギ

 一番近い存在であるべき彼女なのに。

 一番彼を理解すべき恋人なのに。

 彼の周囲の人間はみんな知っていることでさえ、話そうとはしてくれない。

 微かに涙が滲んだが、アリスは懸命に堪えた。

「ずっと隠し通すつもり?」

「できればな」

「そう……」

 踏み込むことさえ許されない領域を目の当たりにして、物理的にも離れなければいけないような気になる。

 ベッドから離れてテーブルに腕を組み頭を乗せた。

 しばらくすると、彼の寝息が聞こえ始めた。

「あたしはあんたの何なのよ」

 蚊の鳴くような声で呟いても、届かない。




 秋は深まり、外の空気も冷たくなってきた。

 冷たい手で買い物袋を下げエレベーターを降りたアリスは、ウサギの部屋の前に立つ男を発見した。

 男はスーツをきちっと着ており、手帳のようなものに何かを記している。

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