アリスとウサギ
ウサギの計らいにより、兄ウサギは東京の郊外で、ひっそり別の建設会社で勉強をしている。
アリスが巻き込まれたことをきっかけに、話し合いで決着をつける機会が設けられたわけだが、左頬を見るとどうやら話し合いだけでは話がつかなかったようだ。
初めは一歩も引かなかった父ウサギも、割り込んできた熊谷や他の社員の話をウサギに無理矢理聞かされ、独裁的な姿勢をほんの少しだけ反省したという。
結局兄ウサギはあと2年関東で勉強をした後、役員として会社に戻り、時期を見て社長を引き継ぐ、という形に落ち着いた。
というのは、後から聞いた話。
ウサギはウサギの道を行く。
籍が抜けていたって、家族はウサギのことを思っているような気がした。
カウンターの奥にいるウサギと、ふと目が合う。
彼はアゴ髭に触れながら、恥ずかしそうにはにかんだ。
もう片方の手に、何か箱のようなものを握り締めて。
ウサギと父ウサギのタバコの銘柄は同じものだった。
そして父ウサギも、喉を大きく揺らして、10秒でジョッキを開けていた。
これまで散々掻き乱れてきたウサギの家族さえ愛しく思える。
アリスはじわりと溢れてきた涙を堪え、カシスのグラスを空けた。