アリスとウサギ
「あたしは懐かしい夢を見たよ」
「どんな?」
アリスは「夢」というキーワードに、忘れかけていた記憶をたぐり寄せる。
「一年の頃の夢。一緒に受けてた英語の講義で、あんたの発音が下手だって超怒られてんの」
「何だよそれ、俺ペラペラだっつーの」
「あはは、懐かしいっていうのはおかしいかもね」
ウサギは笑うアリスの顔を見て大きな目を細めた。
そして意識的にアリスの左手に指を絡める。
「懐かしいよ、一年の前期。お前は英語の発音、下手だったもんな」
「何でそんなこと知ってるの?」
「見てたもん、奈々子のこと」
「嘘ばっかり」
「嘘じゃねーって。見てたんだよ。有栖川なんて名前、珍しいなって思ってさ」
名前が珍しいからといって注目されることには慣れていた。
でも、よりによってそんなこと覚えてなくていいのに。
人はいつも人の悪いところばかりを見る。
アリスは恥ずかしくなって顔半分を布団に埋めた。