セツナイロ



頬を何かが滑る感触。


あたしは重い瞼をゆっくり開いた。



「やっと起きた…」


何となく暗い…。

その中から聞こえた声はどこか聞き覚えがあった。


そしてうっすらと見て取れるその顔にも。



眼鏡の奥の目をほんの少しだけ細めて笑う。


彼独特の笑い方。

忘れる筈がなかった。


「カネシロ…ユウさん……。」


「ユウでいいって。」


何でここに?


あたし寝てた?



起き上がろうとするものの、体が言う事を聞かない。



「まだ動かない方がいい。」

彼があたしのおでこに手を乗せた。


あたしは何故か力が抜けて、もう一回地面に背中をつけた。


なんだろう…



フワフワする。




まるで浮かんでるみたいな、そんな感じ。



「ごめんね、こんな所でさ。

女の子を運ぶのってさ、結構勇気いる事なんだな。

俺ここまで運んで来るのだってハラハラしてたし。」


そう言ってまた目を細める。



そう言えば雨の音が聞こえるのにここは濡れてない。



なんだろ?


まるで1つの部屋みたいだった。



とても大きいとは言えないスペースだが、あたしが横になれるぐらいの大きさは充分あった。


「ここって…」


「屋上だ。

でもここは誰も知らないだろうな。」


そう言ってまたあたしのおでこに手を乗せた。




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