セツナイロ
「ママも、帰っていいよ?」
あたしはリンゴの皮を剥くママに言った。
それに対し、ママは無言で首を横に振った。
そして剥きかけのリンゴと包丁を机の上に静かに置いた。
「あなたはいつもそう…」
ママがあたしの頬を両手で包んで、どこか悲しげな表情を浮かべて言った。
「……ママ…?」
「もっと甘えていいのよ…。
我慢しないで?」
あたしの心の中にある小さな闇に、何色でもない色が混じったような気がした。
どうして、なのか…
ママには分かってしまうらしい。
あたしが悩んでる事、バレバレみたい。
「ううん、我慢なんてしてないよ。
だからさ、帰って?
明日も仕事なんでしょう?
あたしは大丈夫だから。ね?」
「そう…じゃあ帰るわね…。
あっ、明日は病院出れるって先生が言ってたわ。
じゃあ、ゆっくり休むのよ…。」
去っていくママの背中が妙にあたしの胸につっかえた。
あたしは涙がこぼれそうで、急いで天井を見上げた。
そこには変わらぬ、白い平面があるだけで、あたしの中まで白く染められてしまうのではないだろうか。という無駄な考えが浮かんだ。
あたしはそれを消すように強く瞼を閉じた。