ハツコイ☆血肉色
僕は切り分けたチーズケーキを皿の上に乗せ、リビングのテーブルに運んだ。
女は何事もなかったような顔で、ワイングラスになみなみとマルゴーを注いでいる。
「お待たせ」
僕は女の向かいに腰を下ろした。
「わー、美味しそう」
「食べて。けっこういけるよ。最近メディアに取り上げられて評判になってる店のものだから」
「いただきまーす」
女は喜色満面の笑みを浮かべてフォークを手に取った。
僕は女に付き合い、とくに食べたくもなかったケーキを口に運び、ワインで胃に流し込んだ。
取るに足りない退屈な会話を交わしながら、不毛な時間が緩慢に流れていく。
スヴェトラーノフのマンフレッド交響曲が、リビングの中を反響していた。
抑制のきいた叙情的な旋律が、密やかな緊張感を紡ぎだしている。
嵐の前の静けさを思わせる厳粛な演奏だ。
静謐とした湖面に小さな波紋が広がり、やがてそれは荒れ狂う巨大なうねりへと変容する。
そんな情景を思い浮かべながら、女の胸元に目をやった。
女はフォークを口に運ぶたびに体を前に傾け、ラウンドネックの襟元がたるんでその奥が見えた。
ああ、早く。
早くアレを切り取ってしまいたい。
女は何事もなかったような顔で、ワイングラスになみなみとマルゴーを注いでいる。
「お待たせ」
僕は女の向かいに腰を下ろした。
「わー、美味しそう」
「食べて。けっこういけるよ。最近メディアに取り上げられて評判になってる店のものだから」
「いただきまーす」
女は喜色満面の笑みを浮かべてフォークを手に取った。
僕は女に付き合い、とくに食べたくもなかったケーキを口に運び、ワインで胃に流し込んだ。
取るに足りない退屈な会話を交わしながら、不毛な時間が緩慢に流れていく。
スヴェトラーノフのマンフレッド交響曲が、リビングの中を反響していた。
抑制のきいた叙情的な旋律が、密やかな緊張感を紡ぎだしている。
嵐の前の静けさを思わせる厳粛な演奏だ。
静謐とした湖面に小さな波紋が広がり、やがてそれは荒れ狂う巨大なうねりへと変容する。
そんな情景を思い浮かべながら、女の胸元に目をやった。
女はフォークを口に運ぶたびに体を前に傾け、ラウンドネックの襟元がたるんでその奥が見えた。
ああ、早く。
早くアレを切り取ってしまいたい。