ハツコイ☆血肉色
「BGMがないと寂しいよね」


円城寺くんはそう言って、キッチンから持ってきたボトルとワイングラスをテーブルに置くと、そのままステレオのところへ行った。


棚にびっしりと詰まったレコード盤を一枚一枚手に取り、吟味している様子。


「スヴェトラーノフなんてどう?」


すべとら……?


「うん、いいかも」


彼は宝ものを扱うような手つきでレコードをプレイヤーにセットして、そっと針を落とした。

ぶつりぶつり、という小さなノイズのあとに、オーケストラの演奏がはじまった。

クラシックなんてさっぱり理解できないけれど、きっと素晴らしく価値のある音楽なのだろう。


「じゃあ、あらためて乾杯ということで」


ワイングラスを軽く持ちあげて、円城寺くんはクールにほほえんだ。

白い歯がきらりと光る。

リアルでそんな光景を目にするのは初めてのことだった。


「ユリカちゃん、かなり強いよね。店でもけっこう飲んでたみたいだけど」

「え? あ、うん。お酒大好きだから! あはは」


一瞬、誰のことかと思ってしまう。

『ユリカ』と名乗っていたことをすっかり忘れていた。


合コンの顔あわせから、かれこれ三時間くらいたつけれど、円城寺くんがわたしの正体に気づいている様子はまったくない。

もっとも、気づくはずはないのだけれど。


今はまだ、『小松千世子』の名を明かすわけにはいかない。




< 4 / 33 >

この作品をシェア

pagetop