fragile

小さく胸にトゲが刺さった感覚に陥る。

「俊也さん…かわいそうじゃない?」

「………」

私が言葉につまると、箸で卵焼きをつまみながら里沙が口を開く。

「嫉妬されちゃうんじゃない?」

「嫉妬なんか……。もう…しないよ」

「そうかなあ」

お茶を口に含みながら、里沙は半ば納得いかないようにこっちを見る。
私は思わず目を逸らす。
なんだか見透かされているみたいで怖くなった。

確かに、私達は嫉妬カップル。むしろ嫉妬で繋がっているようなものだ。言い返す事も出来ないし、言い返す理由もない。



-


「あーっ」
暖かい日差しが差す午後3時すぎ。
チャイムと同時に授業という名の仕事が終わる。
私は大きく背伸びしたところだ。
新入部員の私達は、まだ不慣れに音楽室をの重い扉をくぐった。


「こんにちはー」
「「こんにちはーっ」」

明るい返事が返ってくるとともに、今日も頑張りますか!というやる気が呼び起こされる。

私は音楽が好きだ。
小学生のときに音楽に出会い、それからずっと音楽とともに生きてきた。
深くは学んでいないが、好きな気持ちは変わらない。
記号の意味がどうだとか、ロマン派がどうだとかは、私の中ではあまり関係ない。

奏でたいから奏でる。

ただそれだけ。

本当自分って情けないとか思うけど…


偶然、いや運命的に出会ったクラリネット。
私はこいつにべた惚れだ。
とにかく可愛すぎる。
丸く柔らかい音、細かい連符に適した造り、低音の落ち着いた響きも、高音の華やかな音も。
私の生活に欠かせない。

もちろん長けている訳ではない。むしろ劣っている。

だけど練習したかった。
努力して上手くなりたいと思うものであった。




-

空が薄暗く染まる頃。6時になった合図とともに、音がぷつんと途切れた。
部活終了。

唇の裏に痛みを感じながら、手際よく楽器の水分を拭き取る作業にかかる。

偶然にも、里沙もクラリネット奏者であった。私達が仲良くなった一番の原因は、そこにある。

「口疲れたわぁ。最後の方息漏れしたもんー」

「だからだからっ。休憩ほしかったし」

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