屋根裏の街
私はクラスの川上瑠奈が大嫌いだった。いじめを率先するのは山口とか林とかリーダー格のケバい女子で、川上瑠奈はほとんど関わっていない。腕なんか簡単に折れてしまえそうなほど細くて、小柄で、長い髪に緩いパーマをかけていて、目がクリクリしてて、ホッペタがピンク色で、憎たらしいほど可愛い。その上学年でも上位に入るくらい成績優秀で、少し運動音痴なところが憎めない。プライバシーなんてまるきり配慮されていない個人情報大量放出の文集のプロフィールにによると、父親が国際線のパイロット、母親は自宅でピアノ教室を開いているそうだ。整った字で将来は英語の先生になりたいと書いてある。ちなみに私のプロフィールには、父親がスーパーのパートで母親がショッピングセンターの衣類売場のレジをしている、と流行り文字になりきれていない歪んだ字で書いてある。将来の夢には、とりあえず「進学したい」と切実なことを書いてた。そこまで勉強など出来ないくせに、周りに馴染もうという必死さが痛々しく滲み出ている。梶田の両親は二人揃って喫茶店を開いていたが、去年この文集が配布された直後に経営難で潰れた。『喫茶ドリームをよろしくちょんまげ!』という、いじめという火に、油を注ぐようなウケないコメントは、残酷にも空回りしてしまった。
なぜ川上瑠奈が嫌いかというと、ただの妬みの他に理由がない。金持ちで秀才で美人で、ほどよく欠点があって親しみやすい。真似したくてもできなくて、前の席で近いのに、声を掛けるには遠かった。私が足を踏まれたり、消しカスを投げられたりしていると、あの潤んだ瞳で私を見つめる。同情か優越か知らないけど、彼女からのその感情がやけに癪に障った。梶田にも同じ目を向けて、バカな梶田はすがるように川上瑠奈に惚れているんだろう。
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