恋せよ乙女
「あの、氷室さん…。ボタンはずすだけでも手伝いましょうか?」
不意に口をついて出た一言に、氷室さんの動きは止まる。そして定まらない視線は、ゆっくりあたしを捉えた。
「……何、紫音って変態だったの?
それとも僕を襲うつもり…」
「い い え 。断じて違います。
変態かどうかは自分では判断つけかねますが、弱った氷室さんを襲うつもりなんて、さらさらありませんから。ただ、手元が覚束ないようでしたので…」
今日の氷室さんは、よほどあたしを犯罪者にしたいようだ。
一気にまくし立てるように弁明すると、氷室さんが小さく息を吐く。
「ふぅん…。でもそんなことまで手伝わせたら、僕が病人みたいじゃない。」
「いえ、今日のあなたは病人なので、そんな心配無用です。」
しれっと、いつもの無表情でそんな風に言われると、呆れるのを通り越して、何だかどっと疲れた気がした。