恋せよ乙女

そして部屋に戻ると、すでに着替えを終え、ベッドに横になっている氷室さんの姿があった。

左手で顔を覆うようにしながら荒い呼吸を繰り返す氷室さんを見て、あたしの風邪よりも酷いんだな、と少し胸が痛む。


「……氷枕持ってきましたよー。
なので、頭上げてくださいね。」


あたしがそう言えば、無言のまま微かに上げられた頭。その下に、持ってきた氷枕を滑り込ませた。
これで少しは楽になればいいのだけれど…


「…そういえば氷室さん、朝は何か食べましたか?」

「…………いや、何も。食欲ない。」


空の冷蔵庫を思い出しながら問いかけてみれば、やはり予想を裏切らない答えが返ってきて。

食欲ないも何も、この家には食べ物なんてなかったじゃないか。
何より、栄養摂取しないと、治るものも治らないっていうのに。
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