恋せよ乙女

「いや。もう帰りなよ。
それに、何度も病人病人って言わないでくれる?僕は別に、弱ってなんかないしね。」

「でも、氷室さん…」


だけど、そんなあたしの気持ちを察することなく、氷室さんは淡々と言葉を紡ぐ。

明らかな強がりに、この人はどこまでやせ我慢する気なのだろうと、少しだけイラっときたけれど。


「でも、も何もないよ。
大体、キミだって病み上がりの身だろ。また僕のが移ってぶり返したら、色々と面倒なんだよ。僕は他人の看病なんて、二度とごめんだ。」


続けられた氷室さんの言葉で、ちくりと胸に何かが刺さる。

“色々と面倒”

“看病なんて、二度とごめんだ”

いつもと変わらない、辛辣な言葉…
でもその言葉にあたしは、何も言い返すことができなかった。

だってそれは確かに、紛れもない事実だったから。
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