恋せよ乙女

面倒をかけたのもあたし。

看病をさせたのもあたし。

氷室さんの風邪の原因もあたし…。

氷室さんが帰れと言うのも、ある意味当たり前なのかもしれない。


「……そうですね。余計な真似して、どうもすみません。あたし帰りますので、お大事にしてください。学校で待ってます。」


ひきつる頬に気づかないフリして、必死に笑顔を繕う。ベッドの彼に背を向け、玄関につながる廊下を歩きながら、込み上げる悔しさを押し殺すように、ぎりっと奥歯を噛みしめた。

あー、やべ。何か泣きそうだ。

涙をこらえながらも、滑稽な自分自身に浮かぶ自嘲的な笑み。また無駄なことをしてしまったのか、あたしは。

はぁ、と小さく息を吐き、玄関のノブに手をかけた。
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